2025年8月16日、渋谷WWWで行われた The Otalsのライブ『All Imperfect Summerland』に行ってきました。
渋谷WWWの入り口に張られたライブのポスター。不自然な黒塗りが存在する。
The Otals(以下、オタルズ)のライブに行くのは今回で二回目になる。
僕がオタルズにハマったのは2024年の7月頃で、その頃には初めてのライブの開催が決まっており、チケットは売り切れていた。当日は旅行に行く予定があり、どう足掻いてもライブに参加することはできなかった。この時点でライブに行こうと思うほどハマっていたかと言われると少し怪しい。なんてたって関東は遠い。他の用事と近ければもしかしたら足を延ばすかもしれない、程度だったはずだ。とは言ったものの、普段イラストアバター で活動しているバンドのライブということで、やっぱり気になってしまいチラチラとSNS を覗いてしまっていた。8月4日の夜を迎えると、Xのおすすめ欄にはライブの感想が複数流れてきた。何を歌ったとか、二人が実在したとか、MCが無かったこととか、アンコールで一言だけ喋ってくれたとか。決して数は多くなかったけど、旅先の宿でそれらを見ていた僕は次回こそは!と決意した。めちゃくちゃ気持ちいいぞ、と誰かが言っていたから、自分もやろうと決めたのだ。*1 とはいえ、次のライブがあるかなんて分からない。これっきりだと言われてもおかしくはない。ひょっとすると自分は唯一無二のチャンスを逃したのかもしれない。もっと早くに巡り合っていれば、という悔しさを抱えながら聴き漁っていた最中に二度目のライブ開催が決まり、この後ろ暗い気持ちとは案外早くおさらばできた。
こうして迎えた2月28日の2nd Live『The Dizzy Heart』。 僕にとっては初めて生で見るオタルズ、しかもこのサイズのハコでライブを見るのは初めての経験だったので圧倒されっぱなしで、ディティー ルの感想が「気持ちよかった」「FAXxxxxxと目が合った」だったのがあまりも情けない。ノンストップで曲が続くので、全然演奏の光景を思い出せない曲も幾つかあった。それが悔しくて、それから数か月間ずっとFAXxxxxxxがライブで見せたピースと、両手を広げるポーズを真似してた。*2 サブスクやYouTube で聴いてきた曲たちとライブで演奏される曲たちの同一性は、タイトルというラベリングの上にしか存在しない。確かにそれらは同じメロディーで、同じ言葉で形成されているが、音源の中で意図された作為をライブという一過性の場で完璧に再現することは難しい。ライブという特殊空間で演奏される楽曲には、恐らく作り手たちにも操り切れないポテンシャルを秘めていること、それがとりも直さずこの日まで気が遠くなる回数聴いてきた音にも存在しうることをほぼ力づくで思い出させられた。それは反響する轟音で輪郭が曖昧になるライブハウスという環境が、ともすれば他のジャンルよりも多分に作用するシューゲイザー のサウンド ゆえのものなのかもしれないと思った。こんな当たり前のことを今更思い知っているようでは自分で納得のいくライブレポートなんて書けやしない、と 打ちひしがれていた。 ところで、僕は『備忘録音』というポットキャストをしており、どうせそこで感想会をやるのだからわざわざブログに書き残さなくてもよいだろうという思いが当時はあった。そのことについて共にラジオをしている友人に話したところ、「書き残すことにも意味がある」と言われた。実際に「書き残す」ことを実践している人に言われたこの言葉は重みがあり、今回このレポを書こうと思い至ったとき真っ先に浮かんだのはこのやり取りだった
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(2月のライブの感想を話してる回)
自分自身ライブレポを読むのが好きだし、できる限り長い間、あの夜の光景を脳内で思い描けるよう記憶しておきたいをという思いから、ここに書き残しておくことにする。忘れないなんてきっと無理だろうけど、ささやかな抵抗として。
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ライブハウスに行くっ!
前回よりもはるかにキャパの広くなったライブハウス。物販の時間に行くと、既に外まで列ができている。ひょっとして大人気バンドなのでは? 幸いなことに、整理番号20番台と運にも恵まれ*3 、Marinaの目の前二列目辺りに陣取ることに成功。前回のライブはFAXxxxxxの前、大体6~7列目くらいの場所だったので、あまりMarinaが見えなかった。その分FAXxxxxxのファンサを存分に浴びたので大満足だったけど、人はどんどん欲張りになってしまう。
何らかの法に抵触する近さではないか。
入場してから開演までは緊張で終始顔が強張っていた。というか表情筋が変な動きをしていた。同行者、怖がらせてごめんね。
演奏が始まるっ!
めちゃくちゃテンションの上がる入場曲でサポートメンバー、FAXxxxxxとMarinaがステージに現れる。割れんばかりの歓声だ。入場曲、ライブが終わった後もずっと耳に残っていて、この曲は何なんだ!とXにポストしたら博学なフォロワーに教えていただいた。
Rag and Bone
ザ・ホワイト・ストライプス
ロック
¥255
provided courtesy of iTunes
music.apple.com
これらしい!!!すごい、聴くと一瞬でライブの気持ちになれる。早速セトリプレイリストの先頭に突っ込んだ。調べてみるとこのホワイトストライプスというバンドは男女二人組で、姉弟を称して活動していたらしい。なるほど、それも選出の理由の一つかと納得した。
1曲目は新アルバムの先行シングルとして配信された「アンチソーダ にいわせれば」 。 『All Imperfect Summerland』と銘打たれたステージのOPを飾る曲はこれしかないという思いはファンもオタルズも一緒だったに違いない。曲の入りでちょっとズレてたことすら愛おしい。 それにしてもライブはすごい、なんてったって音が全然違う!!!
突然ですが、ソーダ 水は夏の季語です。 *4
(ななめのさんはいつも夏山暑太郎先生の言葉を伝えてくれる)
氷が溶けて味気が薄くなり、次第に炭酸も抜けていく。ソーダ とは刹那的な飲み物であり、その刹那性において夏を表象している。では、"アンチソーダ "とはそうした刹那に過ぎていく時間への抵抗だと読み取れよう。歌詞の中で「そういうことにしとこうぜ」と合言葉のように交わす二人は、いずれ来る未来の存在を確かにかみしめながらも、今この瞬間に自らの時間を緩やかに固定しようとする。それは、ライブに望む我々の態度とどこか重なってはいないだろうか。轟音の演奏を浴びながらそんなことを考えていたら一曲目が終わってしまっていた。一瞬だった……。いやこれめちゃくちゃいい曲だな……。 2月のライブは記憶にない曲がいくつかあると言ったが、特に冒頭数曲は様々な衝撃が駆け巡り、ほとんど覚えていなかった。 あと今回のライブ、背景にMVが流れる贅沢仕様。どこに目を向けていいか分からない。だからと言って前回と同じ轍を踏むわけにはいかない、と意識を切り替えライブに集中する。
2曲目は「シナリオライター を撃たないで」 。7月29日に出たライブと同じ名を冠するアルバム『All Imperfect Summerland』にて、過去のシングルやEPに収録された曲が「Summerland.ver」として再録された。正直、再録版もオリジナル版もどっちも大好き!となってしまうのだけれど、「シナリオライター を撃たないで」は飛びぬけて再録版がすごかった。演奏も歌声も、一本軸が通りより安定感が増した印象を受け、そのうえで音一つひとつの輪郭が明瞭になり、 弾けるような明るさを携えて聴こえてくる。そしてライブになるとなによりも、サビのシャウトがとにかく気持ちいい!この快楽でチケット代4,000円の元は取れました。こんなに安い値段で本当に良かったんですか? 終盤、「歌えますか皆さん」とニヤけ顔で語りかけるFAXxxxxxxに熱狂で答える観客。すごい、二曲目から歌わせてくれるんだ、ありがとうございます。ライブに来られなかった、オタルズの楽曲で時たま漂う杉並の気配に敏感な先輩に思いを馳せながら身体を揺らし「Check out1.2…」を歌う。そのままのテンションで三曲目へ、止まらない!
3曲目「ドラゴンなんだって」 。この曲もすっかりライブアンセム という風格。オタルズを知ってから初めて新曲として迎えた曲なので結構思い入れがある。このあたりでようやくステージをちょっと俯瞰で見れるようになってきた。映像を映しているというのも要因の一つかと思いますが、前回よりもステージが格段に明るい!二人がよく見える!!FAXxxxxxは長めのウルフカットでオーバーサイズの青いシャツの上からさらにダボダボなジャケットを羽織り、首からは十字架のネックレス、ひまわり柄のワイドストレートパンツ(これどこで買えるんですか?欲しい、有識者 教えてください)に靴はお馴染みのマーチンという衣装。カッコよすぎ。Marinaは……なんて表現すればいいんだろう。黒とグレーのツートンカラーのテクノポップ アイドル(?)が着ていそうな近未来風の衣装で、こちらもマーチンだったはず。髪型はお団子ツインに三つ編みという装い。間近で見たMarinaは、あり得ないくらい可愛かった。 3曲が終わりSEが流れ始めようやく一息、とさせてくれない。すぐに次のセットが始まる。ところでライブのSEは配信されないのだろうか……。ないですか……。
4曲目「Moon Landing!」 。ゆったりした曲なのもあって、無意識に歌声に集中していく。このあたりで、「Marina、前回よりはるかに歌が上手くなってないか!?!?」と気づく。ライブを通して、曲やパートによって色んなピッチを行き来していたけど、全然外れなくてすごいし、「Moon Landing!」は特にそれが鑑賞体験に与える印象が大きかった気がしています。めちゃくちゃ圧倒された。個人的にライブで一番化けたと感じたのがこの曲だった。
このイラストを背景にのびやかに演奏する二人の姿にもかなりグッと来た。
5曲目「アステロイド ・フォーク」 。「アステロイド ・フォーク」!?!?思わず叫びそうになり危なかった。『Destroy My Memory』の曲ってバンドサウンド 以外の比重が大きくて、ライブではあんまりやんないのかなって素人目に思ってたんですが、余計なお世話だぜと言わんばかりのパフォーマンスを見せつけられた。完全に頭の中に無かった選曲だけに、嬉しさも段違いだった。聴けて良かった……。
以前このポストを見かけて漫画を読んだ。とても良かった。ライブレポを書きながら読み返し、それでもやっぱり泣きそうになってしまった。結構不思議な感覚なのだ。一つのささやかな願いがめちゃくちゃな時間スケールをも貫徹し成就する、その様はまさしくコメディだし、心地の良い滑稽さがある。しかし、再会した二人が感じた「うれしさ」が、人生ゲームの盤面を辿って、それまでの時間を埋めるように加速してその滑稽さを追い抜く瞬間がある。そして人生ゲームのゴールにたどり着いたとき、二人の感じた「うれしさ」が再度訪れた別れに耐えうるものだと示される。そこに不思議な感傷があった。 曲単位でこんなはっきりとした影響元があるなら、インタビューで語ってた好きな小説家や漫画家も氷山の一角なんだなという気持ちになった。The Otals伝奇研究センターのセンター長としては、更なる言及を期待したい。
話が逸れました、6曲目「ウェンズデーにおまかせ!」 。ライブで聴いたら多分泣いちゃうんだろうなと思ってたんですが、案の定だったね……。しかもMVまでついてくるし。 もういつまでもセカイ系 とかゼロ年代 みたいな言葉で音楽なり小説なりを測るの良くないよと思うけど、でも確かにこの曲はセカイ系 の形をしているのだ。そしてその形に否応なく惹きつけられる自分がいることも悔しいけれど事実である。けれども、この曲の良さってむしろそこからはみ出している部分にあると思う。それはやりすぎなくらいキャッチーでビビット なメロディもだし、MVやリリックでも一度もセカイかキミかという選択を迫っていないところに見て取れるような気がしている。
飛び出した夜空まで 眼下の明かりも思い出も やっぱり守ってみたい 夏休みも君だって
夏休みと並列して置かれる守ってみたい君は、どう考えたってセカイの側だろう。いくつも動機がある中で、しかしウェンズデーが望んだはたった一人の男の子の言葉だという愛おしさが、彼女のプロフィールを更新した短くも雄弁な言葉が、可愛くてはハイなメロディに乗せられ我々を貫くのではないか。それはセカイ系 的な感傷とはまた違う到達点であるように思う……。こんなことは別にどうだってよい、ライブ中は全く考えていなかった。とにかく、この曲の魅力はライブでも健在だったのだ。 感無量だったことにはもう一つ理由がある。1stライブの感想ポストにて、「黒猫になっては」のところでMarinaが猫のポーズをしていたというものがあった。このポストを見たとき自分はものすごい顔をしていた*5 。今回、うわさに聞いていたそのしぐさを拝めて本当にうれしかったのだ。 SEが流れ、2セット目が終了。てかこのSEのタイトル、「夏になったらきっと」ってずるくないか?基本的にSE後ろの曲に掛かっていて長めのイントロみたいな感覚で聴いてますが、タイトルが付くと、何というか、途端に情報量が増す気がする。ニクいぜ……。やっぱり何らかの形で配信して欲しいよ。
「ウェンズデーにおまかせ!」で既に泣いてしまっているのに、7曲目が新アルバムで最も好きな曲である「シュシュをあげるよ」 だったために大変な事態になった。 この曲は本当にすごい。オタルズは歌詞の中の視点の切り替えで楽曲のストーリーを紡いでいくという手法をよく使う。そこで生まれる対称性やその破れが、男女のコーラスワークを通すことでより印象付けられる。オタルズのこのやり方が僕は堪らなく好きだ。「シュシュをあげるよ」もこの方法で歌詞が綴られていく。
風鈴きらりと鳴って
前髪ふわっと動いた
喫茶店のベルが聞こえる
真剣な顔で驚いた
風鈴きらりと鳴って
長くした前髪が揺れて
子供ぽかった
レモンのシャーベットを
大事に掬うように
引っ搔いた左手の理由
せっかく話してくれたのに
レモンのシャーベットを
すっかり溶け切ってしまって
なんでこうなんだろ、いつも…
「風鈴きらりとなって」「レモンのシャーベットを」と、同句を頭に置いて同じ瞬間を二者の視点からパラレルに見ているという対称性のあるシーンを演出している。しかし片方には『死んでしまいたいよ』とこぼしそうになる内心があり、パラレルな視点の片方には鏡写しに捉えさせまいとする欠落が存在する。つまり、一見対称的に見えるが、片方は穴が開いたように語られるべき内面が抜け落ちてしまっている。この欠落を補完しているのは、片方からの語り掛けだけで構成されたという、ともすれば対称性を壊しかねない形式のラスサビなのだ。
「死んでしまいたいって思った日 もう朝が来ないよう準備して でも、気づいたら目覚ましかけてて 『わたしちょっと偉いなあ』って思って笑ったの ね、大丈夫だよ 難しいこと馬鹿だからわからないけど きみが笑うと嬉しいの あー… いつもありがとう また遊ぼうね わたし口下手でごめんね」 なんで泣いてるんだろう わああん
『死んでしまいたい』と考える個人の不可侵に思える領域に、届けるべき言葉とはどこかズレていて稚拙さすらある言葉が届く。この言葉を歌い上げるMarinaの歌声の美しさといじらしさも、あふれ出る言葉だという切実さを十二分に伝えている。その眩しさったらないのだ。 話を演奏に戻そう。もちろん、演奏は完璧だ!二人の歌声は絶好調。FAXxxxxxのギターも跳ね回り、Marinaの歌声は泣かせに来る。とにかくグズグズになってしまったけど、この曲は終始楽しかった。それは今回のライブを通してFAXxxxxxがずっと笑顔というかすごく柔らかな表情で歌っていて、その柔らかさが楽曲の中で色んな感情を拾い上げているように感じられて、自分もそれに引っ張り上げてもらったからの感慨のような気がしている。
8曲目は「ストロベリーショートケイクス」 。「ストロベリーショートケイクス」!?!?いや、こういう反応になりませんか?決してマイナー曲だなんて言うつもりはない。言うつもりはないが、じゃあ『Farewell, Our Cabbagefields』の収録曲から一曲ライブでやる曲選んでくださいって言ってこの曲出てきたら相当びっくりしませんか? ここまで書いて、そういや前回ライブで「タイニーとスケアクロウ」聴いた時も同じこと考えてたな……と気づいた。驚くほど何も成長していない。オタルズさん、すみませんでした、天邪鬼最高です。 「ウェンズデーにおまかせ!」「シュシュをあげるよ」で感情を揺さぶられた後の、ローテンポなFAXxxxxxのソロ曲めちゃくちゃ沁みる。ライブのFAXxxxxx、音源よりも声が高い印象を受けたけど気のせいだろうか。あまりこういう感覚には自信がないのでめったなことは言えないけど、この歌声もすごく好きだった。いい曲だな……。
9曲目「こっち向いてひまわり」 。これも好きやねんな……。Oasisみたいなギターイントロで始まるスローテンポの曲、ただただ美しかったね......。何度聴いても、「私きっと立派な 人なんかじゃないのに 好きになってくれて ありがとう」の胸を突く感触が衰えないし、生で聴くと何倍もの威力だった。会場を多幸感とノスタルジーが包み込み10曲目へ。
10曲目はコラボ曲「ロリータ田舎に生まれ」 。てことは全パートMarinaか!!とにわかにテンションが上がる。歌の入りはものすごくしっとりとした雰囲気で囁くように。最後のほうに向かっていくにつれ演奏も歌声も感情が溢れるように高揚していく。ラスサビの「どうして」の緊張感が凄まじい。でも最後を締めくくるのは、温かな感情だった。
SEを挟み、11曲目の「イヴとアリス」 へ。「イヴとアリス」!?!?!?前回前々回と、セトリにphysical版限定曲が2曲入っていたので、それ自体は定番になっているが、これはかなり予想外。あまりライブ向きって感じの曲じゃないと思っていたから……。「イヴ」と「アリス」が、誰もが知っている"あの"イメージであるならば、到底あり得ない組み合わせだと言える。組み合わさることない二人のメルヘンな内的世界と現実の綱引きの合間に、さり気なく後悔と別れを忍ばせるリリックや、間奏の千切れるような不協和音がこの曲の妖しさを際立たせている。そして「ずっと友達のままでいられますように」という願いの切実さが胸を打つ。ライブでも音の厚みがすごかった。
12曲目は「チートコードは給水塔」 。え、あの数字のパートを暗唱できるの!?と一瞬思ったの、あまりにもアーティストをナメていて良くない。ギターのクリーントーンでのアルペジオに色んな音が載って駆け出していく原曲のイントロとは少し違い、最初から盛り盛りのサウンドで始まる。こんなにドラムの存在感がある曲だったのかと驚いた。ブルージーという印象が正しいか分からないが、普段とは違った一面が垣間見えとても楽しい。
13曲目「SNS:あるいは東京の歌ばっかりだ」 。オタルズが小樽のことを歌っているの、素朴なうれしさがある。小樽に行ったことはないので何様だと言われたら返す言葉もないが。坂ばかりなんだね……。アイドルグループへの提供曲ということで、サウンドは結構新鮮、でもやっぱり骨子はロックだねと強く感じる曲だ。大好き。ちょっと語尾を伸ばすような歌唱に、矢継ぎ早に切り替わる男女のコーラスワークが心地よい。Marinaパートの可愛さも白眉。めっちゃファンサしてくれるね……ありがとうね……。そんなことを思っていたら、今回のライブ最大の出来事が。曲終盤、「君の町のことを 私が歌うよ」のところでMarinaに指をさされた。なんと、オタルズが京滋のことを歌ってくれるのか。今回ばかりは幻覚ではない。こう言うと前回FAXxxxxxと何度も目が合ったことは幻覚だったのかと言われるかもしれないが、確かに指をさされたのだ。最前列ってすごい。衝撃的過ぎて、かなりの間呆然としてしまった。回復したころにはもう14曲目が始まっていた。
「きみはテレプシコーラ」 も相当好きな曲だったけど、ファンサを真正面から受けた衝撃でイントロの部分の記憶が一切無い。幸い、Marinaの優しい歌声のおかげで、落ち着くまでにはそんなに時間を要さなかった。エイプリルフールの1日限定で公開されたこの曲。なんでこんな名曲が1日限定なんだと頭を抱えていた4月1日もずいぶん遠くなった。もし、今後ライブで聴く機会があるのならば、絶対に最後の部分を歌いたいと思っていたから、最後観客に歌わせてくれて本当にうれしかった。夢を叶えてくれてありがとう。テ~レプシコ~レ~!
ここでMCのターンに。前回は喋りすぎたと笑顔で語るFAXxxxxx、そんなことないよ!もっと喋って!そう、我々はFAXxxxxxが喋ることに圧倒的に「賛」側なのだが、どうやらMarinaは「否」だったらしい。でも今回は話さないといけないことがあると言ってFAXxxxxxが続けたのは、The Otals結成当時の夢について。それは、今我々がいるこのライブハウス「渋谷WWW」をSOLDさせることだったと言う。この言葉に客席から割れんばかりの歓声と拍手が送られる。「皆さんに夢を叶えてもらった」「皆さんが必要としてくれる限りはオタルズでいたい」なんて、涙を誘う言葉を連発する。 思えば今日はずっとFAXxxxxxの表情も声も柔らかだ。キザなのは変わらないけど、前回のツンとした感じとはずいぶん印象が違う。そんな姿を見るとこっちもエモーショナルな気持ちになってしまう。「あと何回みんなの前でオタルズと名乗れるのか」とも。もちろんすべてのバンド活動が奇跡であることは理解しているが、インディーズとなるとその存在の不確かさはけた違いなのだろうと想像する。語る表情に深刻さはないけれど、当然そこには彼らなりのリアリティがあっての言葉だろう。それを理解することも寄り添うことも、インディーズという現場を知らない、音楽活動をしたことのない僕には恐らく不可能なのだろうという実感してしまった。これはまあ、結構つらいことだ。ただ、それならばできる範囲の事を真っ当にやっていきたい。それは曲を聴いたり、MVを見たり、そのことを誰かに話したりする、好きな物に対してのごく当たり前の営みだ。ライブレポを書き残すことの意義も、そこに見出そうと思ったのだ。 感傷的な気持ちになっていると、タイミングを見計らうかのように、大阪公演が発表され、再び場内が湧く。大阪!「皆さんが来いって言ったから行くんだよ?」「来てくれるよね?」と執拗に(楽しそうに)問いかけてくる。 あと、今回はMarinaが喋ってくれたの地味にうれしかった。一言、「来てねー!」だけだったけど。もちろん行くよ!!!曲を聴いたり、MVを見たり、そのことを誰かに話したり。できる事を真っ当にやっていたら、いつの間にかライブの日になっているはずだ。 FAXxxxxxは「オレたちの夢を叶えてくれてありがとう」と微笑んでMCを締めた。こちらこそ、ありがとう。
MC明け、「3曲やって終わり」といって始まったのは名曲「波ちゃんとバク」 。何度も聴いたギターリフの音でラスト3曲が幕を開ける。このイントロが聞こえた瞬間の盛り上がりがすべてだと思う。これを絶対にライブで聴きたかったんだ……。音に感情がすごくのっているのが伝わってくる。それを全身で浴びられる贅沢を噛みしめる。ラスト3曲は、それぞれの歌が何を歌ってたのか段々と溶けて分からなくなってしまっていた。だってステージ見たらFAXxxxxxも踊りながらギター弾いてるんだもん。そして「波ちゃんとバク」と言ったら間奏のギターだろう。サポートメンバーの方のプレイがカッコよすぎた。ハイポジションを引く時の姿勢と表情が堪らない。みんな楽しそうに演奏していて本当に良かった。それでラスサビ、二人とも感情むき出しで歌う中、「でも あなたの笑顔には敵わない」の一瞬だけ、歪みのない、ともすればアンプすら通っていないようなプリミティブなギターとMarinaの歌声だけになる。この緊張と解放の瞬間が何よりも気持ちいい!
(ライブ後、 オタルズに 2か月前のツイートをいいねされびっくりした。号泣したよ)
間髪入れず16曲目「マイ・ロリポップ・ナイトメア」 !やりたい放題のセトリである。一心不乱に身体を揺らしてたのであまり記憶にない。韻を踏んでから、「ガラクタの山で笑う~」で一段階ピッチが上がるところとか、サビ前の電子音とかとにかく気持ちいいポイントが多すぎるのだ。で、間奏のギターソロがこれまた最高。エモーショナルな歪みが全身を襲う、まだこんなパワーを秘めてたのかと一気に心をもっていかれた。アウトロもこれが最後の曲と言わんばかりの盛り上がりで締めくくられる。まだ終わりじゃないよ。
最後の曲はオタルズの魅力が凝縮された名曲「ティーンエイジはきみのもの」 。ここで!!!凄まじい畳み掛けに笑顔で立ち尽くしてしまう。 僕にとってこの曲の持つ意味はとても大きい。本当に大きく感情を揺さぶって、抉り出すような力がある。地方で生まれ育った僕にとって、この曲の風景を構成するアイテム—セブンティーンアイス、パチンコ屋、国道沿いの都市計画—はその画一性において閉塞感の象徴なのだ。しかし、オタルズはこのランドスケープをちょっとした仕掛けとレトリック、そして力強くて優しい音色でガラリと変えてしまう。歌詞の最後のフレーズ、そこにたどり着いた瞬間に世界がリアルタイムで塗り替えられていく魔法に魅入ってしまった。何よりも、僕が閉塞感しか見出せなかった風景に色彩を見ていたオタルズのまなざしにいたく感動したのだ。そんなことを思い出しながら、この曲に浸りきっていた。 ステージに充満する熱は最高潮に達し、サビなんか心なしかいつもより明るく聴こえてくる。間奏に入り、印象的なギターリフを終えると、掛け声のパートがやってくる。「これが最後の曲です!」と言って観客を煽るMarina。お馴染みの「1,2,3,4!」を叫んだあと、転調と共にラスサビへ。これが気持ち良すぎる。渾身の「ね!」にノックアウトされ、ライブは終了。歌が終わり、大歓声に迎えられた二人が舞台袖へはけていく。 退場の際、多種多様なピースサインをくれるFAXxxxxxの横で、ステージから身を乗り出して手を振ってくれるMarinaと、最後までらしさ全開の二人だった。ありがと~~~~二人ともカッコよかった!!!
二人を見送った拍手が、すぐさまアンコールのものとなる。いつもなら意気揚々と手を叩くのだが、ちょっと、今回は、疲れた。ので控えめに行こうと決めた瞬間、となりの同行者に水を手渡される。ありがとう、水ってこんなにおいしかったっけ……。そうこうしているとバンドメンバーと二人が再度登場。ちょっとした機材トラブルがあったらしく、この時だけゆったりとした時間が流れていた。FAXxxxxxがギターのチューニングをする光景ずっと見ていたい。
(WOW)
アンコール最初の曲は「オフィーリアにもう一度」 。この曲やるならここしかないというタイミングだ。Marinaの透き通る歌声で曲が始まる。17曲をあれだけのエネルギーで歌ってくれたのに、最後まで一切ブレることがない。特異な没入感を生むオタルズの楽曲の中で、「オフィーリアにもう一度」は俯瞰的で、柔らかな視線を感じさせる。それだけに、あらゆるエネルギーを使い切った今、しみじみと響いてくる感慨があった。この心地よさにずっと浸っていたくなる。
場内に漂う名残惜しさを振り切るように最後の曲「そしてチャイナブルー」 へ。オタルズの代表曲と聞かれたら、この曲を答える人が多いのではないか。過ぎ去っていく時間と忘却を、過度に脚色せずアップテンポなメロディーで爽やかに歌いあげる。ちょっとニヒルな手触りと照れ隠しが同居する、なんて瑞々しい曲なのだろう。この曲は特に、音源で何百回と聴いてきたのに、初めて聞いた時のような感動が襲ってきた。名曲が過ぎる。 「『ねえ 忘れないでね』なんて きっと無理だろう」と歌うFAXxxxxxの穏やかな笑顔が、MCで話していたことと相まってずっと脳裏から離れない。ウォー、書きながら色々フラッシュバックしてくる......!曲の終盤、Marinaが観客にマイクを向けてくれる。いつも口ずさんでいるパートを大声で歌えるのだ!と、両手を上げて応える。ラスサビで会場は今日一番の盛り上がりを見せる。もちろん僕も、両手そのままに、正真正銘最後の曲を噛みしめた。 アウトロでは感情的にギターをかき鳴らすFAXxxxxxと、同じく身体を揺らすMarinaがわちゃわちゃと動き回り大変楽しい絵面に。FAXxxxxxギターを高々と振り上げ、会場には壊すのか!!!とにわかに緊張が走る……も、振り下ろしはせず肩に乗せて神輿を担ぐみたいに歩き回る。終始笑顔だった。
終演
二人は再び拍手喝采に見送られ退場。その直前にFAXxxxxxがピックをばら撒いた。手を伸ばしてもこぶし三つ分くらい離れた場所だったので掴むことはできなかった。しかし、偶然そのうちの一つが足元に転がってきた。咄嗟に拾ったはいいものの全然現実感がない。これはオレのものってことでいいんスカ?眺めると両面サイドが削れていて、実際に演奏で使っていたものだと分かる。まさかの出来事にかなり頭が混乱していて、会場が明るくなったことに気づくのに時間がかかった。
(FENDER Premium Celluloid 351 Shape Pick Medium Ocean Turquoiseね、了解) ライブは終わりました。ホントに終わった?疲労と余韻でうまく思考できない。結局終演後15分くらい会場に居座っていた。同じような人は他にもいて、ぼーっとしていたら10人くらいの集団に写真撮影をお願いされた。恐らくオタルズが楽曲提供をしているアイドルグループ「水槽とクレマチス」のファンの方たちだったと思う。すごく明るい方たちで、彼らとの会話でようやく現実に帰ってこれた。ありがとうございました。 その後は機材の写真を撮ったり、物販でポスターを買ったりして、外へ出たのは終演から三十分くらいたってからだった。待っていてくれた同行者たちに夢うつつの状態で近づくと、一人が一心不乱に絵を描いていた。絵が描けるのってずるいなと、この時本気で思った。
(とんでもないセットリスト)
その後はよく分からない店によく分からないまま入り、感想戦へ。感極まっている二人(僕と一心不乱に絵を描いていた人)を他三人が宥めるという地獄のような現場だった。付き合ってくれた人、本当にありがとうございました。 僕は誇張抜きに、8月16日がこの一年で最も楽しみな日だった。その確信は間違っていなかった。一年どころか、今までの人生で最も楽しかった日と言っても過言ではない。何の躊躇いもなく最上級を使える。本当に楽しかった。 思えば、これまで好きになったアーティストはいつも若干世代が上だったり解散してから知ったりと、リアルタイムで追いかけているという感覚は薄かった。なので、今このようにオタルズを追いかけていけることがこの上なくうれしい。願わくば、彼らの冒険が長く続きますように。最高のライブをありがとう!!!
大阪公演は一日も経たずに売り切れたらしい。すご。(じゃあ、いつかもう一度大阪に来ないといけませんね)
エンディングテーマ
VIDEO youtu.be
追記
これは宿に向かう途中で見つけた千歳。そんなに遠くもないらしい。