2023年良かったコンテンツ

 お久しぶりです。虚無です。思えば長らくブログを更新してない! となり、触れたコンテンツも少ないなかで、少ないならブログ書くかと思い立ち、簡単にですがコメントを書いてみました。本当はもっと腰を据えて書くつもりだったのですが気付いたら12月28日……

  下半期は元気を取り戻し、新しいコンテンツにいくつか触れることが出来たので、来年はこの調子でドシドシやっていきたい。

 

四季大雅『バスタブで暮らす』  

 四季大雅作品は『わたしはあなたの涙になりたい』を読んだことがあったが、こちらの印象はあまり良くなかった。私は所謂難病ものに対してはかなり懐疑的というか、あけすけに言うなら苦手な作品群だ。あまり苦手なものの話をしたくないのでここでは濁すが、この作品では「美しい物語を作って欲しい」と病に侵される当事者が語るのだ。当事者にそう言われたら我々読者はどうすることもできない。その点は不満だったものの、それでも時折居住まいを正して読んでしまう迫力のある描写が多かった。

『バスタブで暮らす』はそういったはっとさせられる場面がさらに増えていた。体に居座る漬物石、能面が張り付いて見えてしまう他者の顔、森見登美彦もかくやというくらい癖のある家族たちなど、就職先でズタボロになった主人公の生活模様や世界の見え方が戯画的に描かれる。バスタブの中から世界の様々な場所に手足が伸び、混ぜっ返し、しかし明確に宝を掴んで帰っていく、そんな力強い物語だった。

 

鴨志田一Just Because!

 青春と呼ばれる時間におけるロスタイムのことは大好きですが、まさかロスタイムから始まる物語があるなんて思ってもないじゃないですか。高校三年生の三学期という時間は、どうしても将来の自分について考えることを強制し、全員が何かを急いでいる。その中でも一つここを区切りにしようという意思が偶発的に絡み合ってとてつもない渦を作り出していた。そんな渦に巻き込まれてしまった小宮恵那さんの輝きは凄まじかった、小宮恵那さんになりたい。

 

 

京極夏彦陰摩羅鬼の瑕

 1年か2年ぶりに京極堂シリーズを読んだ、めちゃくちゃ面白かった。『姑獲鳥の夏』の対称となる作品というか、関口巽だけが由良昂允という人間を正しく捉えていた中で、「トリックも何も無い」というシリーズにある程度共通するであろうコンセプトに過去一忠実な構図が深く刺さった。毎回京極堂シリーズではお馴染みのメンバーとは別に、部外者とも当事者とも言えない微妙な立ち位置で事件を眺める配役の人がいるが、彼もシリーズで一番好きかもしれない。

 

西尾維新『戦物語』

 物語シリーズが「○○(任意の作品)以降は蛇足」だとか、「惰性で続いている」みたいな言説は、ある程度は妥当な評価であるように私も思う。『終物語』以降の作品にファンサービス以外の何があるのかといわれると、答えに窮してしまうのも認めよう。でももうそんなことは私にとってはどうでもよくなっていて、年に一回阿良々木君に会えるだけでうれしいのだ。皆さんがご自身の旧友に数か月か、あるいは数年ぶりに再会した場面を想像してみてほしい。思い出話に盛り上がったり、最近あった面白い出来事とか、たわいもない近況を話し合ったり、人生の話でしんみりしたり、それはきっと楽しいはずだ。私にとって『物語シリーズ』の最新刊を読むということはそういう行為に近い。だから正常な評価ができるはずもない。本作の内容はいたってシンプルで、戦場ヶ原ひたぎと結婚した阿良々木暦が怪異関係の依頼がてらに新婚旅行に赴き、彼の陰に住む忍野忍との関係を問い直すという話だ。実際のところ怪異はほぼ出てこないし、何か大きな事件が起きるわけでもない。しかし、最後の景色が抜群に良かった。阿良々木と戦場ヶ原は旅の最後、星を見に行くも天候が悪かった。見えないはずだったのに、いつの間にか二人の頭上には満天の星空が広がっていた。それは何故なのか。私がこの作品を傑作だと感じるのは、これまで『物語シリーズ』を読んできた蓄積によるものだ。だが、その蓄積を的確に刺激するのもまた技巧なのではないだろうか。

 

渡航やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。

 

https://https://x.com/kangairureplica/status/1736324831761817927?s=46&t=jvgL0IEYDiL1Eaz5CuaTDQ

『俺ガイル研究会』さんに寄稿させていただきました。今読めて本当に良かったです。